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勤怠管理とは
勤怠管理は人事や労務と大きな関わりがある業務の一つです。勤怠とは、出勤や退勤、早退や遅刻、欠勤などの勤務に関する状況を指します。これを元に、給与の支払いや勤務実態の把握、働きすぎの防止などに活用します。
つまり勤怠管理とは、従業員の働き方の状況を正しく把握し、業務の最適化や健全な労働環境の管理をすることです。
労務部門の主な業務としては、タイムカードに打刻された労働時間の確認・把握や、休日出勤や残業の有無、代休や有休取得の記録などがあります。シフト勤務のある企業では、従業員のシフト管理も勤怠管理の一つです。
給与や従業員の働き方に直接影響するものなので、勤務日数や労働時間などを正確に管理し、法定労働時間に則り業務が行われているかなども確認しなければなりません。勤怠管理システムを導入している場合は、システムの管理や運用なども業務に含まれる場合もあります。
勤怠管理とよく似た言葉としては就業管理がありますが、就業管理は、従業員の労働時間や休暇、休日などの就業規則を把握し、法令に則って運用されているかを管理する作業を指します。
一方勤怠管理は、就業管理で確認した社内規則運用ルールのもと、実際の業務がどのように行われているかを正確に確認・管理するための実務ということになります。
ところで勤怠管理では、法令に則った就業状況の確認を行わなければなりませんが、この法令にはどのようなものがあるのでしょうか。
代表的な法令として挙げられるのが労働基準法です。
労働基準法では企業などの使用者は、従業員の労働時間を適切に管理する義務があると定められていますが、特に勤怠管理と密接に関わりがあるのが労働時間に関する規定です。
労働基準法第32条では「(使用者は)休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させては ならない」と定められています。また「(使用者は)休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない」とされていて、」それ以上になる場合は労使協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
休憩時間については「労働時間が六時間を超える場合においては少くとも四十五分、八時間を超える場合においては少くとも一時間」の休憩を設けるよう定められています。
これらのルールや法令を把握し、自社の労働時間が適正に守られ、健全な労働環境が保たれているかを確認・管理することが、勤怠管理の基本的な業務となります。
近年ではフレックスタイムや在宅勤務など、勤務形態の多様化により複雑性を増していますが、勤怠管理担当者は自社の就業状況をきちんと把握し、実労働時間を正確に管理することが求められています。
勤怠管理が必要な理由
前述のように勤怠管理の基本的な業務とは、労働基準法などの労働関連の法令に基づいて、実労働時間が法定労働時間内に適切に収められているかなどを確認・管理することですが、勤怠管理はなぜ必要なのでしょうか。企業が勤怠管理を求められる理由の1つは、従業員の「働きすぎ」を防止するためです。つまり労働基準法などは従業員を守るための法令という側面があるということです。
一日、一週間などの一定の時間単位での労働時間のほかに、就業時間を正確に把握し管理するためのルールが定められ、違反すると罰則もあります。
従業員の正確な勤怠情報を把握していなければ、正確な賃金を支払うことができません。またあまりにも長時間労働が続いている場合、従業員の健康を損なう恐れもあります。
勤怠管理を行う目的には、実働時間に応じた適正な賃金を支払うことや、適正な実働時間で従業員の健康を守ることなどが挙げられます。コンプライアンスを遵守するという点でも、勤怠管理は必要な業務といえます。
既にご存知の方も多いと思いますが、勤怠管理は政府が推し進めている働き方改革に対応する上でも重要項目となっています。
2019年4月から、労働安全衛生法が改正され、使用者である企業は客観的方法によって労働時間を把握することが義務化されたことにより、企業は従業員のタイムカードなどの就労時間に関する記録を、3年間保存することが義務付けられます。
さらに労働時間の把握は、従来時間外労働の上限規制がなかった管理監督者なども対象となります。この背景には、管理監督者の長時間労働が見逃されやすいという問題点が指摘されているためです。全ての労働者の安全や健康を守るため、勤怠管理の必要性はより高くなっているといえるでしょう。
とくに長時間労働は長年我が国における社会問題としても取り上げられていることから、働き方改革に加えて、健康経営という言葉も企業の課題として注目されています。健康経営とは、従業員の健康管理を企業の経営課題とし、従業員の健康に対して計画的かつ戦略的に投資していく経営戦略です。
従業員の心身の不調は業務の効率化や生産性の向上、医療費の増加など経営において大きく影響します。従業員の健康維持に取り組むことで、企業の長期的な成長にもつながります。
このような健康経営を実践するにあたって、勤怠管理はその一翼を担うものともいえます。
勤怠管理を行うべき組織
厚生労働省のガイドラインでは、勤怠管理の対象者となるのは「労働基準法41条に定める者およびみなし労働時間制が適用される労働者を除くすべての労働者」となっています。みなし労働時間が適用される主な労働者で挙げられるのは、林業を除く農林水産業に従事する人や管理監督者と呼ばれる立場の人です。農林水産業は天候などの自然条件に影響を受けるため、計画的な労働時間の管理が困難とされています。そのため勤怠管理の適用が除外される対象になります。
管理監督者とは、他の労働者を管理監督する立場にある人です。部長や課長といった管理職、工場長や店長などの労務管理を実施する立場の人、秘書など経営者と一体の従業員などがあげられ、役職で該当の有無が確認されるのではなく、職務の実態に応じて判断されます。
しかし前述のように、労働安全衛生法の改定によって管理監督者も労働時間の把握が求められるようになったことにより、管理監督者の勤怠管理も行うことが義務化されたため注意が必要です。
つまり、企業は社員の立場に関係なく、働く人全ての稼働日と始業時間、終業時間、休日や時間外労働の有無、有給取得状況などの把握をしなければならなくなったということになります。 そのため全ての従業員を対象に、長時間労働の是正や適度な休憩や休日の取得など、労働時間の記録と確認・管理を行う勤怠管理がより重要なものとなります。
ただ、本質的には全ての従業員に働き過ぎなどの問題がないように管理し、健康経営を実現することが目的ですので、要点を踏まえつつ、事前の確認や残業を抑制するための指導や仕組みなどの体制を整える必要があります。
勤怠管理システムとは
勤怠管理業務の担当者には毎月末に勤怠情報に関する迅速な処理が求められます。従業員の残業時間や遅刻、休暇の取得状況は、支払われる賃金計算にも関係しますので、きちんと適正な賃金を支払うためにも正確性が必要とされます。従来、多くの企業の勤怠管理には、手動で行うタイムカードが導入されていました。この方法では一般的に、従業員が日々打刻したタイムカードを、月々の締め日に部署の責任者が1人分ずつ確認し、チェックしたタイムカードは総務の勤怠管理担当者に回され、再度確認したうえで台帳やエクセルなどのシートへ入力されます。
さらに入力データを総務の責任者が確認し、給与計算が完了となります。しかしこの方法では、多くのスタッフと時間が必要となり、特に従業員の数が多い大企業の管理部門においては、大きな負担となります。
ただ、近年では新たな方法として、勤怠管理に関する業務を一括で行う、勤怠管理システムを導入する企業が増えています。勤怠管理システムとは、出退勤の打刻や労働時間の集計、残業や休暇申請などを、システム上で一括して行うものです。
打刻データや申請データに基づき、月々の労働時間や欠勤、休暇、給与計算などを自動で行うことができます。
従業員の出退勤時間を打刻するタイムカードの代用には、Webブラウザ上のボタンやICカード、生体認証システムなどが使われています。また、入退室管理システムも導入している企業では、それに勤怠管理の機能を連動させている場合もあります。連動させることで例えば、オフィスに最初に入室した時間を出勤、最後に退室した時間を退勤とすることが可能になります。
普段の入退室が出退勤打刻になるため、従業員にとっても管理部門にとっても、手軽に正確な勤務時間を報告・把握できるため、実効性のある勤怠管理が実現できます。
さらに、勤怠管理システムにはクラウド型のサービスを提供しているものも多く、場所にとらわれない働き方を進めるうえでも有効です。
テレワークや出張の多い従業員などの場合は、社外から勤怠状況を報告することができますし、遠隔地に支社がある企業なども、本社で一括して勤怠管理を行うことが可能です。
勤怠管理システムを導入するメリット
勤怠管理システムの導入はさまざまなメリットをもたらします。ポイントごとに詳しく見ていきましょう。正確に打刻できリアルタイムで労働時間を把握できる
勤怠管理システムを利用するメリットは、出退勤時間を正確に管理できることです。ICカードはもちろん、スマートフォンやパソコン上からも打刻できるため、従来のタイムカードのように、打刻機に列ができ、後から列に並んだ人などが正確な出勤時間を打刻できないといったケースもありません。勤怠管理システムの導入により、一人ひとりが端末でリアルタイムに労働時間を把握できることも、労務管理者だけでなく自分自身で勤務状態を客観的に把握できるという点で重要です。
また、従業員及び管理者全ての労働時間や残業時間、休暇取得状況も一括で確認できるので、労働安全衛生法の改正に伴う、管理監督者の勤怠管理にも手軽に対応できます。
不正打刻を防止できる
タイムカードや自己申告などによる打刻は、不正な打刻を検知しにくいというデメリットがありました。例えば、本人以外に打刻させることで、実際は遅刻をしていても、タイムカード上は出勤している状況を作り出すことができてしまいますし、退勤のタイムカードを打刻した後に、デスクに戻ってサービス残業を行うという不正も見られます。勤怠管理システムと入退室管理システムを連携させている場合は、基本的に各自が持ち歩いているICカードやスマートフォンなどが打刻ツール兼認証キーとなるので、不正をしにくいという利点があります。
また、生体認証システムが導入されている場合は不正打刻がさらに難しくなります。その他、GPS認証やアラーム機能によって打刻忘れや不正打刻を防止するということも、生体認証対応のシステムを導入すれば可能です。
勤怠管理業務の効率化
勤怠管理システムの導入は、勤怠管理を行う労務担当者の業務効率化にもつながります。勤怠管理は、全従業員の勤怠状況を正確に把握・管理しなければならないため、工数や人的コストがかかる業務です。打刻ミスの修正やエクセル入力のミスなど、ヒューマンエラーによる賃金の支払いミスが生じるリスクも考えられます。勤怠管理システムを導入することで、従来の勤怠管理業務に潜んでいたリスクを未然に防止できますし、勤怠管理全体の業務にかかる人員や時間もカットできるため、業務の効率化が期待できます。
法令順守の徹底が実現
働き方改革に伴う各種の法令改正により、労働時間の制限や休暇等の取得に関する規定がこれまで以上に厳しくなっており、従来のような紙のタイムカードや申請書などによるアナログ管理では、残業時間や有休の取得状況が正確に把握できず、いつの間にか法令を違反していたということにもなりかねません。一方、勤怠管理システムであれば、勤務状況を客観的かつ正確に記録することができ、履歴も正確に残ります。
また、残業時間の超過や休暇の取得期限が近づいた際にアラートや通知を出せる機能を持つシステムもありますので、このような機能を活用すれば、法令を遵守しながら労働時間を正しく管理できます。
健康経営の推進につながる
勤怠管理システムを利用し、法令遵守を意識した労働管理を行うことは、従業員の心身の健康を守ることにもつながり、企業の健康経営を意識した取り組みを後押しすることが期待できます。従業員が良好な健康状態の下で業務に従事することで、パフォーマンスも向上し、結果的に業績にも良い影響を及ぼすと考えられます。長期的な視点では、医療費の企業負担額の低減にも寄与することが期待できます。勤怠管理システムの導入は健康経営への投資の第一歩と言えるかもしれません。
勤怠管理システムを選ぶポイント
自社に勤怠管理システムを導入する際には、どのような点に気を付けるべきなのでしょうか。さまざまなポイントから検討してみましょう。自社のニーズに合っているか
勤怠管理管理システムを導入する前に、なぜ導入する必要があるのかを明確にする必要があります。やみくもに大規模なシステムを導入し、必要以上にコストがかかってしまっては無駄な投資になってしまう可能性もあります。まずは勤怠管理業務全般の効率化・自動化など、実現したい項目を洗い出しましょう。現状での勤怠管理業務におけるトラブルや問題点から導入の目的を定める方法もあります。
目的に合ったシステムを選ぶことで、自社のニーズとコストがバランスよく機能し、導入のメリットを実感しやすくなるでしょう。
従業員や担当者にとって使いやすいこと
勤怠管理システムは管理者だけが使用するものではありません。打刻などは全ての従業員が行うため、ユーザーの対象は全ての従業員となります。同時に、同じ企業でも従業員によってさまざまな働き方があります。打刻方法だけをとっても、出張や在宅勤務、時差勤務などそれぞれの勤務形態に対応する必要があります。打刻以外では、一般的な有給休暇や慶弔休暇だけでなく、自社独自の休暇制度など各種申請事項に手間がかからないものを選ぶこともポイントです。
デモ版や体験版が提供されている場合は、事前に従業員にテスト利用してもらい意見を聞くことも大切です。
他のシステムやツールと連携できること
勤怠管理システムを使って他のシステムと連携することで、さらなる業務効率化が期待できます。例えば給与計算システムと連携できるのか?入退室管理システムとはどうか?など、勤怠管理システム単体でできること以外に、連携によって何ができるようになるのかを調べておくことも重要です。結局、勤怠管理だけをシステム化しても、関連する他の業務がアナログで非効率な場合はあまり意味がありません。その他にも、その勤怠管理システムは在宅勤務などを想定して外部からのアクセスが容易か、スマートフォンで利用する場合のUIは最適化されているか?タブレットで利用する場合は?など、アクセス環境や従業員が利用する端末関連の懸念についても事前調査が必要です。
加えて、自社独自のユニークな勤怠管理方法や勤怠関連の制度がある場合は、自社仕様にカスタマイズできるかという点も確認しておきましょう。
サポート体制が整っていること
勤怠管理システムを導入後、運用するなかで疑問やトラブルが生じることもあります。そのため事前にサポート体制を確認しておくことはとても大切です。緊急時のサポート体制が整っている製品であれば、よりリスクを低減できます。サポート内容については、有料と無料に分かれている場合もあるので、見積もりやカタログなどでチェックしておきましょう。
勤怠管理は、どの企業においても必ず行わなければならない業務の一つです。企業が従業員に違法な労働状況を強いるのを防ぎ、同時に従業員の心身の健康を守るものとも言えます。
勤怠管理システムの導入は労務管理の効率化のみならず、企業全体の健康経営においても、強い味方となってくれるでしょう。
これを機に、導入を検討してみるのはいかがでしょうか?