【特別寄稿】コロナで変化したコワーキングスペースの状況と、これからの運用トレンドについて

2022年09月08日
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日本において「コワーキングスペース」というキーワードで施設が作られるようになり約12年が経ちました。
2012年から コワーキングスペース7F(ナナエフ) というコワーキングスペースを埼玉県さいたま市で運営し、 一般社団法人コワーキングスペース協会 の代表理事として様々な運営事業者と話をしてきた経験から、新型コロナウイルス感染症の影響で変化した、コワーキングスペースの状況と、これからの運用トレンドについてご紹介したいと思います。

コロナ以前のコワーキングスペース

もともとコワーキングスペースは、2000年代半ばに欧米において、友人の自宅やカフェなどにカジュアルに集まって一緒に作業をしたり、イベントを行う「Jelly(ジェリー)」というコミュニティが形成されたことから始まりました。
そこから、固定で集まれる施設があった方が良いということになり、Coworking Space(コワーキングスペース)に繋がったと言われています。

Coworkingの「Co」とは「共に」という意味で、それに「Working」が繋がり、「共に働く(共働)」スペースという意味になります。
日本国内においては、2010年頃から「コワーキングスペース」という言葉が出始め、増えていきました。

コワーキングスペースグラフ

Googleトレンドで「コワーキングスペース」と検索した検索結果。2011年くらいから検索され始めたことが分かります。



当時のコワーキングスペースは、自社オフィスや店舗の空いた一画の空間を「コワーキングスペース」と名乗るケースが多く、造作面など含めて、専門の施設を作るよりも参入障壁が低かったように思います。

コワーキングスペースは、飲食店や民泊などと異なり、現時点では監督官庁が無いため、営業許可要件の必要のない業種業態となります。
なので、コワーキングスペースを作るために専用で物件を用意するというよりは、空いたスペースのシェアリングというような形で「住み開き」に近い、いわゆる「働き開き」のような、「運営事業者を含めた働く場所のシェアリング」というイメージがより強かったように思います。



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コワーキングスペース7F(ナナエフ)での普段の様子(2015年当時)



私たちの運営している「コワーキングスペース7F(ナナエフ)」も、2012年にオープンしていますが、もともとは運営会社である 株式会社コミュニティコム のオフィスを「働き開き」したような施設でした。
つまり、自社の従業員もそこで働きつつ、外部の人もそこで働いている、というような形です。(現在は別フロアに従業員用の個室もあるので、コワーキングスペース専用施設となっています。)
1フロア65坪・215平米の広さで、今なら中規模となるかもしれませんが、当時はかなり広いコワーキングスペース施設とされていました。

当時のコワーキングスペースの文化や商慣習としては、施設運営趣旨を創業支援であったり地域活性化のくだりで説明している所が多くありました。
利用者についても、現在のように新型コロナウイルス感染症の影響によって大企業に所属する従業員の利用が一般的になった状況とは違い、当時はその地域の小規模事業者、具体的にはその地域で、これから起業する人、起業したての人、長年フリーランスをしている人などが多く集まっていました。

その結果、そのコワーキングスペース内ではイベントを積極的に行うことが主流であり、そのイベント内容や置いてある書籍によってその施設の特徴が出るとともに、その施設の集客にも繋がっていました。

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コワーキングスペース7F(ナナエフ)での創業関係イベントの様子(2015年当時)


コロナ直後のコワーキングスペース

新型コロナウイルス感染症の影響が出始めた直後、特に第1回目の緊急事態宣言の時などは、コワーキングスペースを利用する人は激減した傾向が強かったと思います。

より影響を受けた地域としては、コロナ以前は利用者が多かった首都圏などの都心部です。通勤をしなくなったことによって、シェアオフィスのような個室タイプの施設の退去が増えたり、月額会員やドロップイン利用(一時利用)が減ったということを施設運営事業者から見聞きする機会が増えました。

一方で、郊外型の地方都市においては、職住近接により、コロナ直後はコワーキングスペース施設の利用者が逆に増えた、という状況もあると聞きました。
特に、コロナ直後の在宅ワークが推奨された期間では、適切なワークスペースが無かったり、小さい子どもが居る家庭であったり、自宅にWiFiが無かったりで、自宅に働く環境が無く、近場のコワーキングスペースを利用するというケースも多かったことが一因だと思います。

また、さらに地方を見ますと、テレワークの普及によって会社まで出社しないでフルリモートで働くことを実践する会社も増加し、月に数回、都市部に出れば良いという人も増えてきたことから、業種・業態によっては会社所在地からかなり離れた所に住む人も増える傾向にありました。
このとき、その地域の人と繋がるためにコワーキングスペースを利用するという人が現れ、いわゆる地方でのコワーキングスペース需要もコロナ以前より高まったように思います。

コロナから2年が経ったコワーキングスペース


新型コロナウイルス感染症の影響が出る前と出た後の明確な違いとして、大手企業の従業員がテレワークをする機会が大幅に増えたということがあると思います。
それまでも、東京オリンピックの開催が決まった数年前から(その頃はコロナのようなことが起きるとは誰も考えていなかったかもしれませんが)、開催予定期間中のテレワークを推奨する「 テレワーク・デイズ 」のような施策を国が進めるなど、テレワークの機運自体はあったものの、それが強制的になったというのは非常に大きなインパクトだったように思います。


それまでのコワーキングスペースの利用者は、どちらかというと、起業したての人や小規模事業者が創業のために一番初めに利用するスペースというような印象がありましたが、大手企業の従業員の利用がコロナ以前よりさらに増えたことにより、市場拡大のきっかけとなりました。

例えば、大手不動産会社が運営するコワーキングスペースが全国数百店舗というような形で展開され、それぞれの従業員の住んでいる地域で作業することができるような施設の開設が進んだり、コワーキングスペース同士の相互利用制度のようなWebサービスを展開する企業が増えたりすることで急速に一般化しました。



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コワーキングスペース協会の理事も務めている東急株式会社の法人向け会員制シェアオフィスネットワーク「 NewWork 」。従業員数100名以上の法人企業のみ利用できる。無人運営。


また、一方で、地方に住みながら遠隔で都市部の仕事を行う人が増えたことにより、その地域のプレイヤーと知り合う接点としてコワーキングスペースを使うというような、コワーキングスペース黎明期への原点回帰によるリアルなコミュニケーションも、コロナから2年が経って改めて行われるようになったと感じています。



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人口7千人台の埼玉県秩父郡横瀬町の「 オープン アンド フレンドリースペースArea898 」。移住者や旅行者との交流や町民の利用が盛んで、町の活性化の拠点となっている。営業時間中、受付には地域おこし協力隊の方々を中心にスタッフが常駐している。


従って、都市部においては引き続き企業の従業員がタッチダウンオフィス的に使うという需要が残るとともに、地方においては人口が減少するなかでその地域で働くという選択肢が生まれたことによる地域活性化と、その地域の産業・経済をつくり、雇用を生むような創業の流れの対流拠点になっていくと感じています。

これからのコワーキングスペース

次回以降の記事では、コロナ後、コワーキングスペースやシェアオフィスの施設を作る際に活用できる補助金・助成金が増えたことについて触れようかと考えています。
なぜなら、これは国や地方自治体の方向性の1つとも言えるかと思いますが、施設数の急増により、これからの5年くらいの期間で、採算の合う・合わないによって、施設運営の生存競争が起こるという点も今後課題になっていくかと推測します。

コワーキングスペースを開設する民間事業者や行政の目的は様々ではありますが、約10年にわたってこのコワーキングスペース業界にいる身として感じるのは、やはり採算が合わないと閉店する流れになっているということです。
例えば、創業当初は「本業との親和性があれば、施設運営は赤字でも構わない」という話であっても、5年後10年後に運営を続けている事例はほとんど知りません。



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コワーキングスペース7Fがキッカケとなって7F利用者有志で開催された大宮の商店街でのイベント。地場の中小企業が本業との親和性や地域活性化を目的としてコワーキングスペースを開設しても、施設運営の採算が合わなければ中長期的に維持できないし、地域活性化に寄与できない。



これからのコワーキングスペース運営を考えた場合、コワーキングスペースの運営にかかるコストとして、一般的には、賃料と人件費が固定費として大きく積み重なります。この人件費部分を無人化または省人化することによって運営を維持し成長させるケースが増えてくるように思います。

顕著な例では、前述したコワーキングスペース協会の理事も務めている、東急株式会社の法人向け会員制シェアオフィスネットワーク「NewWork」のように、大手企業の従業員が使うことを主とした施設においては無人化がかなり進んでいるように感じています。

また、一方で、その地域で1店舗や数店舗のみの運営で、その地域の事業者や地域で活動する人が利用し、施設内でコミュニケーションが生まれ、スタッフのファシリテーションやアテンドによって、場の活性化を促すコワーキングスペース・シェアオフィスも多く存在します。
このような施設においては、全営業時間帯にスタッフがいることはなかったとしても、コアタイムは必ずスタッフを配置し、利用者とのコミュニケーションを取ることで、その地域のハブとなっています。

その中で、施設運営の一部または全部の無人化や、施設運営に携わる人数を5人から2人に減らすなどの省人化を考えた場合には、なにかしらの施策を講じなければなりません。

例えば、入退室についてはスマートロック「 Akerun 」でドアの施錠・解錠を管理しつつ、ドアの施錠・解錠から、施設利用者の入退室管理、施設予約、従量制課金・月額課金などの自動請求・決済・入金までをワンストップで自動化する「 むじんLOCK 」をAkerunと連携させることで、これらの無人化・省人化による施設運営が実現可能です。

また昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)の流れも進んでおり、日本の人口減少に伴う労働人口の減少に対応するためには、労働生産性を高める必要があり、これをIT技術を活用することで実現していくことは必要不可欠です。
そういった意味でも「Akerun」と「むじんLOCK」は、施設運営におけるDXの流れとして施設運営の維持、成長のニーズに合うツールになっています。

DXを活用し、労働生産性を高める動きは、行政施設などの活用においても同様で、現在、全国に数千箇所あると言われているコワーキングスペース・シェアオフィスにおいても、加速していくことと思います。

「Akerun」や「むじんLOCK」、その他のデジタルツールを組み合わせることで、地方都市においても採算ベースを乗せつつ、その地域の事業者や地域で活動しているプレイヤーとの接点を持ちながら、自分の本業であったり地域活性化の拠点に活かす施設運営事業者が増えてきている印象があります。



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ブックオフコーポレーション株式会社が運営している「ビジネスライブラリー&ワークスペースABBOCC表参道」。自社の書店の横に併設しているコワーキングスペース・シェアオフィスで、「 Akerun 」と「 むじんLOCK 」を導入することで、ドアの施錠・解錠、入退室管理、利用料の請求・決済・入金までを自動化し、無人運営に成功している。

まとめ

今回、新型コロナウイルス感染症の影響で急速に変化、普及した、コワーキングスペースの状況と、これからの運用トレンドについてご紹介いたしました。

テレワーク・リモートワークは以前から一部で実践されていましたが、社会全体で認知度や理解度が高かったかというと、そういうことは無かったかと思います。
しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響で、テレワーク・リモートワークというキーワードを知らない人が居なくなったというほどに、認知度が高まりました。
それに伴い、コワーキングスペース・シェアオフィスなど、会社と自宅以外のサードプレイス的な場の普及が急速に進んでいます。コワーキングスペース業界に約10年関わってきた所感としては、新型コロナウイルス感染症の影響によって、業界の時計の針が20年は早まったのではないかと感じています。

次の10年に向けてコワーキングスペースを取り巻く市場は今後も変わっていくと思いますし、運用方法も変わっていくと、最前線にいる身として実感しています。
コワーキングスペース業界の動向は、今後の日本の働き方や地方創生の流れからも大変に参考になるかと思いますので、もしまだコワーキングスペースを利用したことが無い人がいたら、ぜひ様々なコワーキングスペースを巡ってみるのもインプットとして面白いかと思います。





星野邦敏
星野邦敏
2006年にIT事業を行うフリーランスとして創業し、2008年に法人化してIT事業会社である 株式会社コミュニティコム を設立。その後、2012年から埼玉県さいたま市において、 コワーキングスペース7F(ナナエフ)シェアオフィス6F(ロクエフ)貸会議室6F(ロクエフ) を運営。その他にも、シェアキッチン「 CLOCK KITCHEN 」、インターネット動画配信スタジオ「 チエモ 」などの施設を運営。
2013年からほぼ毎月「コワーキングスペース運営者勉強会」を主催し、2017年からは 一般社団法人コワーキングスペース協会 の代表理事を務める。
約10年にわたる自らの施設運営経験と、約17年のIT事業経験から、スマートロック「Akerun」とも連携できる「 むじんLOCK 」システムを開発。ドア施錠・解錠から、施設利用者の入退室管理や施設予約、従量制課金・月額課金などの自動請求・決済・入金までをワンストップで自動化したいというニーズのある多くの施設に導入されている。 (施錠されている扉を登録ユーザーがスマートロック等の電子錠を活用して解錠し、入退室記録に基づいて部屋の中にいる時間を自動計算したうえで登録ユーザーに対して請求から決済・入金までをコンピュータに実行させる一連の情報処理方法において、株式会社コミュニティコムは特許取得済です。)


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