【特別寄稿】コワーキングスペース施設を開業する際の初期費用の資金調達方法について

2023年01月13日
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はじめに

日本において「コワーキングスペース」というキーワードで施設が作られるようになり約12年が経ちました。2012年から コワーキングスペース7F(ナナエフ) というコワーキングスペースを埼玉県さいたま市で運営し、 一般社団法人コワーキングスペース協会 の代表理事として様々な運営事業者とお話をして、コワーキングスペース/シェアオフィスの状況を見聞きしてきました。

その中で、これからコワーキングスペースやシェアオフィスを開業して、施設運営を始めよう、となった際の初期費用の調達方法をどのようにされているのかについて、この記事でご紹介していきたいと思います。

初期費用の資金調達方法

コワーキングスペースやシェアオフィスの開業にあたって、まず必要となるのは施設を作ることです。ここで、コワーキングスペースやシェアオフィスの施設を作る際に必要な初期費用の資金調達の方法を以下に挙げていきます。

自己資金

いきなり「資金調達」という形ではありませんが、コワーキングスペース/シェアオフィスの施設を作る際に、まず選択肢の1つ目は「自己資金」となります。

よくあるケースとしては、既に他の事業を行っている会社が新規事業としてコワーキングスペース/シェアオフィスを始める際に、社内の資金や事業予算の中から施設の造作工事などを行う場合です。また、自社で不動産を保有している場合、その不動産の空きテナントや空きスペース部分を活用するために自己資金で始めるパターンもあります。

他には、本社ビルのフロアが空いているなどの場合に、社内外の人の交流によるオープンイノベーション目的や求人目的であったり、会議室や打ち合わせスペースを兼ねてコワーキングスペースを作る、というケースも多いように思います。


銀行借入

資金調達方法の2つ目は「銀行借入」となります。コワーキングスペース/シェアオフィスの初期工事費用としては、1坪あたり20~40万円ほどが相場ですが、1坪あたり数万円程度で自分たちでもDIYをしながら作れるような場所もあれば、1坪あたり100万円近くかけるような施設も存在します。

また、地方都市でコワーキングスペースを作る場合、初期工事費用を抑える方法として、オープン後に利用者となるような人たちと一緒に、工事の段階からDIYのワークショップをしながら、電気工事などどうしても業者に依頼しなければいけないものを除いて自分たちで施設の造作をしていく施設もあります。いずれにしても、事業計画書を作り、銀行や信用金庫などから融資を受けて、初期工事費用にあてて開業する、ということもよく見聞きします。

これまでは、初めての事業としてコワーキングスペース運営事業を選んで創業する人は少なかった(元々何かの事業をしていた人が新たにコワーキングスペースを開設するケースが多かった)印象ですが、初めての創業となると700~2,000万円ほど銀行借入をするケースが多い印象です。もちろん、既に創業してから長い期間を経ている企業が新事業としてのコワーキングスペース/シェアオフィス事業を始める場合には、会社の規模にもよりますが、数千万円単位や、場合によっては数億円もの借入をするパターンも実際にあります。

また、資金調達と言う場合、例えばベンチャー企業などでは、エンジェル投資家やベンチャーキャピタル(VC)から出資を受ける直接金融も考えられますが、コワーキングスペース/シェアオフィスをスモールスタートでまずは1施設から始めるような場合は、銀行から借りる間接金融がほとんどかと思います。

2012年12月撮影:10年前にオープンして今でも営業している埼玉県さいたま市のコワーキングスペース7F(ナナエフ)の造作の様子

2012年12月撮影:10年前にオープンして今でも営業している埼玉県さいたま市のコワーキングスペース7F(ナナエフ) の造作の様子。できるところは自分たちでDIYすることで初期工事費を抑えた。


クラウドファンディング

資金調達方法の3つ目は「クラウドファンディング」です。この方法は、地方にコワーキングスペース/シェアオフィスを作る、または特定ジャンルのためのコワーキングスペース/シェアオフィスを作る場合に、そのコンセプトや理念に基づいて資金を調達する購入型クラウドファンディングです。

購入型ではなく株式投資型クラウドファンディングもありますが、コワーキングスペース業界自体が10年以上経過しているため、店舗を作るためだけにクラウドファンディングで資金調達するケースは最近ではほとんど無いかと思います。いわゆる新規性、目新しさがなくなってきているというのが正直なところでしょう。

そのため、今コワーキングスペース/シェアオフィスを開設するためにクラウドファウンディングで資金を集めたとしても100~300万円程度になることが多く、2010年代前半のように500万円以上集まる事例は少なくなっていると言えます。もちろん、発起人の人脈やコンセプトによっては、クラウドファンディングで大型の資金調達ができるケースは今もあるでしょう。また、既存の施設の改装工事や増床、2店舗目開設などで、クラウドファンディングを募り初期費用の一部にあてるケースもあります。

増床する過程で、初期工事費用の一部をクラウドファンディングで募った時の記録

2012年に1フロアから始めて、2016年に2フロア目、2017年に3フロア目と、増床する過程で、3フロア目の初期工事費用の一部をクラウドファンディングで募った。レンタル教室&貸会議室を作って埼玉の創業支援を加速させたい! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)また、コワーキングスペース運営開始から10周年でリニューアル改修にあたっての工事費用の一部をクラウドファンディングで募った。

大宮の起業の聖地「コワーキングスペース7F」10周年リニューアルプロジェクト! – CAMPFIRE (キャンプファイヤー)クラウドファンディングには、資金調達の意味合いもあるが、施設を多くの人たちに事前に周知し、オープン時には利用したいという人が既にいる状態を作る目的もある。


補助金・助成金の活用

資金調達方法の4つ目は「補助金・助成金の活用」です。2020年から拡大した新型コロナウイルス感染症の影響によって働き方が大きく変わり、会社以外の場所で働くテレワークやリモートワークがより一般化しました。また、旅行先で仕事も行うワーケーションもコロナ後に注目されています。

国としてもこの新しい働き方を推進するために、そのための拠点としてのコワーキングスペース/シェアオフィス/サテライトオフィスなど仕事のできる場所の整備に、国や地方自治体の補助金・助成金がコロナ後により多く用意されるようになりました。(コロナ前からもそのような趣旨の補助金・助成金はありましたが、コロナ後はより予算金額や取り組みが増えたという印象です。)

2022年時点の補助金・助成金を、具体的にいくつか挙げると、「デジタル田園都市国家構想推進交付金」の中の「デジタル実装タイプ」「地方創生テレワークタイプ」は、事業費の3分の2または2分の1が国から補助されます。

また、コロナ以前からの取り組みで要綱の内容は年度により異なりますが、2022年度の東京都の「インキュベーション施設運営計画認定事業」では、整備・改修費2,500万円に加えて運営費として年2,000万円(最大2年間)、合計最大6,500万円までの支援を受けることができます(補助率はそれぞれの費用の3分の2以内)。
東京都では、その他に「サテライトオフィス設置等補助事業」があり、整備・改修費が最大2,000万円、運営費が最大800万円までの支援を受けることができ、補助率3分の2以内または2分の1以内となっています。

東京都は一例ですが、コロナ後に各都道府県、各市区町村で、独自にサテライトオフィス(コワーキングスペースやシェアオフィス)を新設するための補助金が用意されている場合も多く、自治体ごとに金額は異なりますが、最大200~300万円、2,000~3,000万円といったレンジの補助金額が多く、補助率も2分の1以内から場合によっては10分の9以内など、費用の多くの部分を補助金で賄える場合もあります。

補助金・助成金の場合、対象企業の要件、造作の際の必須要件(例えば何平米以上の個室を何部屋以上用意するのが必須、など)もありますが、まずはコワーキングスペース/シェアオフィスを始めようとする際には、これらの施策や補助金・助成金があるかを調べ、公募要領を確認してみて、公募のタイミングが合えば申請を試みるのも資金調達の1つの方法かと思います。

特に、地方にコワーキングスペース/シェアオフィスを作ることでその地方の定住者を増やしたり、関係人口を増加させるなど、地域おこしの施策として補助金が用意されている場合は、補助金があるかないかで、その後の採算面や投下資本回収なども考えると初期費用に使える予算が変わってくると思います。

2022年11月のサテライトオフィス設置等補助事業の画像

(2022年11月のサテライトオフィス設置等補助事業)

東京都の「サテライトオフィス設置等補助事業」。コロナ後には特に、東京都だけでなく各都道府県、各市区町村で独自にサテライトオフィス(コワーキングスペースやシェアオフィス)を新設するための補助金が用意されている場合も多い。

その他に2022年時点では、中小企業がコワーキングスペース/シェアオフィスを作る際に「事業再構築補助金」が多く活用されています。この補助金は、新型コロナウイルスの影響を受けている中小企業が新規事業に参入する際に利用できるものです。

事業再構築補助金」は、コワーキングスペース/シェアオフィス運営に限らない補助金になりますが、最大8,000万円まで、補助率3分の2以内を補助金として受け取れます。あくまでざっくりとしたイメージではありますが、仮に開業時の建築工事等で1億2,000万円ほどかかったとして、最大8,000万円(補助率が最大の3分の2の場合)を後から補助金として受け取ることができる、ということになります。このような補助金を活用することで、その後の採算面などを考えた際にも大きな違いとなるかと思います。

このように良いことばかりのように見える補助金の活用ですが、多くの場合、申請しても必ず採択されるわけではありません。たとえ採択されたとしても、その後3年間や5年間などの運営継続が義務付けられることがほとんどです。もし定められた期間以上の運営継続ができなかった時には補助金を返還しなければならないこともあるため、「運営が軌道に乗らなかった場合はすぐに業種業態を変えてピボット(別の事業に転換)したい」という場合には向いていません。

しかし、初期費用という点においては、補助金を利用すると投下資本の回収までの期間を大幅に短縮できるので、事業計画が立てやすいと言えます。また、副次的なメリットとしては、行政や銀行の支援も受けやすくなる、ということもあるようです。

事業再構築補助金の画像

コロナで売上減少の影響を受けた企業や個人事業主などが事業を再構築して新しい事業に取り組むための支援策である「事業再構築補助金」。

なお、これまでに紹介したような補助金を活用して、コワーキングスペース/シェアオフィスの施設を作る場合、スマートロック「Akerun」や、Akerunと連携して利用者の入退室管理や施設予約、従量制課金・月額課金などの自動請求・決済・入金までをワンストップで自動化する「むじんLOCK」システムなどは、上記補助金の補助対象経費に該当するケースが多いです。

具体的には、例えば、「事業再構築補助金」では、補助対象経費の項目は、建物費、機械装置・システム構築費、技術導入費、専門家経費、運搬費、クラウドサービス利用費、外注費、知的財産権等関連経費、広告宣伝・販売促進費、研修費とありますが、スマートロックやそれに関連する入退室管理や施設予約や決済の仕組みなどは、「機械装置・システム構築費」または「クラウドサービス利用費」などに該当することが多いようです。

また、近年では毎年用意されている「IT導入補助金」では、ITベンダー・サービス事業者として登録されているシステムやツールであれば、コワーキングスペース/シェアオフィスの運営に必要なシステムやツールを導入する際に補助対象経費になります。「むじんLOCK」システムなどは、ITベンダー・サービス事業者として登録されており、この対象となります。

他にコワーキングスペースやシェアオフィスの運営に関係するものとして、例えば会計システムやレジシステムなどもITベンダー・サービス事業者として登録されているケースが多くあるため、利用しようとしているシステムなどが対象となっているか確認してみるのもいいでしょう。

コワーキングスペースやシェアオフィスなどの施設運営において、ITシステムを導入する際に活用できるIT導入補助金

コワーキングスペースやシェアオフィスなどの施設運営において、ITシステムを導入する際に活用できる「IT導入補助金」。そのシステムやツールが「ITベンダー・サービス事業者」として登録されていることが前提です。

このように、コワーキングスペース/シェアオフィスを開設する際に、スマートロック「Akerun」や、Akerunと連携している「むじんLOCK」システムのようなサービスも、補助対象経費になることが多くあります。

その場合、補助金で3分の2または2分の1ほどの費用を賄うことができるため、本来かかるはずの費用を補助金の条件で定められた当初の期間であれば3分の1または2分の1ほどの費用で導入することができます。コワーキングスペース/シェアオフィスの開業を検討している方は、当初の事業設計の段階から補助金を検討してみるのも良いでしょう。

Akerun入退室管理(アケルン)とは

その他、サブリースや運営委託などの方法も

初期の費用を自社で賄わないケースとしては、サブリースで不動産オーナーがコワーキングスペース/シェアオフィスの施設を作り、その後10年間などの中長期で家賃に上乗せする形で不動産オーナーに還元していく、というケースも聞きます。不動産業界に詳しく、多店舗展開している外資系を含めた会社では、このようなスキームで展開している施設もあるようです。

また、そもそもソフト面の運営の委託のみを受ける、というケースもあります。この場合は、固定の業務委託費、または、売上/利益の何割かが業務委託費(いわゆるレベニューシェア)、それら双方を合わせてた業務委託費、などの取り決めをしっかりとしておくケースが多いように思います。例えば、行政が運営している施設などでは、運営を民間事業者に委託することもありますが、そのようなプロポーザル(入札)もコロナ後は特に増えてきている印象です。

まとめ

今回は、コワーキングスペース/シェアオフィスの開業にあたって、まず必要となる施設を作る際の初期費用の資金調達についてご紹介しました。
コワーキングスペース/シェアオフィスを開業したい!と思っても、店舗運営となりますので、多くの場合、どうしても初期の投資が必要となります。その際、今までは銀行借入が一般的だったかと思いますが、ご紹介した通り、その方法は多様化してきているという印象です。

また改めて別記事でご紹介できればと思いますが、初期費用の資金調達と合わせて、コワーキングスペース/シェアオフィスを開業する際の不動産物件の探し方も従来とは変わってきていて、不動産会社に頼んだりインターネットサイトから探すなどの方法以外も増えてきいるなど、多様化しています。

コワーキングスペース/シェアオフィスの開業においては、ソフト面などは開業後でも変更できるかもしれませんが、その立地や建築設計のハード面は作った後はなかなか変更しにくいものなので、事前の知識なども備えておくと選択肢も増えるかと思います。
特に、コワーキングスペース/シェアオフィスに関しては、新型コロナウイルス感染症の影響で働き方が急速に変化したり、国としても開業する人を増やしていきたい、地方への移住者や関係人口を増やしていきたい、などの背景から、コワーキングスペース/シェアオフィスを開設するにあたっての国や地方自治体の補助金/予算も増えている傾向にあるタイミングだと思います。

これから、コワーキングスペース/シェアオフィスを開業しよう、または、既に運営していてこれからさらに店舗数を増やしていこう、という際のご参考になればと思います。

星野邦敏
星野邦敏
2006年にIT事業を行うフリーランスとして創業し、2008年に法人化してIT事業会社である 株式会社コミュニティコム を設立。その後、2012年から埼玉県さいたま市において、 コワーキングスペース7F(ナナエフ)シェアオフィス6F(ロクエフ)貸会議室6F(ロクエフ) を運営。その他にも、シェアキッチン「 CLOCK KITCHEN 」、インターネット動画配信スタジオ「 チエモ 」などの施設を運営。
2013年からほぼ毎月「コワーキングスペース運営者勉強会」を主催し、2017年からは 一般社団法人コワーキングスペース協会 の代表理事を務める。
約10年にわたる自らの施設運営経験と、約17年のIT事業経験から、スマートロック「Akerun」とも連携できる「 むじんLOCK 」システムを開発。ドア施錠・解錠から、施設利用者の入退室管理や施設予約、従量制課金・月額課金などの自動請求・決済・入金までをワンストップで自動化したいというニーズのある多くの施設に導入されている。 (施錠されている扉を登録ユーザーがスマートロック等の電子錠を活用して解錠し、入退室記録に基づいて部屋の中にいる時間を自動計算したうえで登録ユーザーに対して請求から決済・入金までをコンピュータに実行させる一連の情報処理方法において、株式会社コミュニティコムは特許取得済です。)

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