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はじめに
GoogleやMicrosoft、Adobeなどの大手ソフトウェア企業が提供するサービスに代表されるSaaS(サース)の市場が拡大し、日本国内でも各分野でSaaSを提供する企業のサービス普及が進んでいます。
自社の業務効率化や生産性アップのためにSaaSを導入したいという中小企業の経営者や人事総務管理部門の担当者に向けて、SaaSの概要や市場が拡大している背景、代表的なSaaS企業、SaaSの特徴やメリット・デメリットを紹介します。
SaaSとは?
インターネットを通じて利用できるソフトウェアであるSaaSとは具体的にはどんなサービスなのか、具体的に説明します。
SaaSの定義
SaaSとは、「Software as a Service」の略語で、「サービスとしてのソフトウェア」を意味します。読み方は「サース」あるいは「サーズ」です。
買い切りのパッケージ型のソフトウェアと異なり、SaaSは提供企業がソフトウェアをインターネットを通じて提供するサービスで、ユーザーは利用したい機能やサービスの範囲を選択した上で活用します。多くの場合、従量課金制でソフトウェアを利用できます。サービスによっては、無料版が提供されている場合もあります。
PaaSとIaaSとの違い
SaaSと同じクラウドサービスの中にはPaaS(パース)、IaaS(イアース)があります。クラウド上で利用するソフトウェアであるSaaSとPaaSの違いはPaaSがプラットフォームそのものを提供するサービスである点です。
一方でIaaSはソフトウェアでなくインフラを提供します。提供できるのはサーバー、ストレージなどのITシステムの基盤となるインフラです。すぐさま利用を開始できるソフトウェアを利用するSaaSと違い、PaaSやIaaSは自分でソフトウェアやアプリケーションなどを開発したり、社内のITインフラを構築するための基盤をクラウド経由で利用するイメージです。ただしネットワークなどのシステム環境や利用したい機能などを自社で選択・構築する必要があるので活用には基礎知識や手間を要します。
SaaSのビジネスモデルが拡大している背景
SaaSのビジネスが世界規模で拡大している理由とは何でしょうか。日本におけるSaaS市場に関する総務省の試算から、SaaSの使い勝手の良さをはじめとした拡大の背景を説明します。
SaaS市場は2026年には1兆6,681億円に
日本におけるSaaSビジネスの拡大は著しく、様々な領域のサービスが生まれています。SaaS市場規模は、2021年時点で1兆5,879億円(前年比28.5%増)(※1)であったところが2026年には1兆6,681億円(※2)にまで成長し、国内の年平均成長率(CAGR)は12.5%と予測されています。
背景には、新型コロナウイルス感染症の影響などが、クラウドへの移行やDX、データ駆動型ビジネス(デジタルデータを活用したビジネス)を推進するきっかけとなり、そのためのツールとしてSaaSなどのクラウドを活用したテクノロジーが普及してきたことがSaaS市場拡大を後押ししていると考えられます。
※1出典:総務省|令和4年版 情報通信白書
※2出典:富士キメラ総研 | ソフトウェアビジネス新市場 2022年版 (市場調査レポート)
サブスクリプション形式が普及した
SaaS市場が拡大している背景には、従来のような高額な買い切り型ソフトウェアではなく、多くのSaaSが定額料金で一定期間利用できる「サブスクリプション形式」で利用できることが挙げられます。利用のためのハードルを低減するサブスクリプション形式での提供が法人向け・個人向けともに増加したことに伴い、SaaSの市場も急速に拡大していきました。
クラウドで利用できるソフトウェアが一般化した
SaaSはクラウド上で利用できるソフトウェアです。クラウドサービスの市場が世界規模で拡大し、一般化したことでクラウドサービスの全体の一定割合を占めるSaaSの市場規模も一層成長を遂げています。
SaaS提供企業側もメリットがある
オンプレミス型と違い、SaaSなら提供するサービスに不具合が起きた場合でも、サービス提供者側で管理するクラウド上のサービス基盤の修正やアップデートなどで対応し、インターネットを通じて利用企業向けに配信すればよいため、導入企業ごとの個別対応が必要なくなるなど保守コストを抑えられます。
また利用企業側から見ても、場所や利用端末を選ばずにクラウド上で活用でき、サブスクリプション形式で導入を始められるSaaSは利用の敷居が低いソフトウェアです。ユーザーにとって魅力ある形態のSaaSサービスを継続的に提供することで、提供企業側は保守やメンテナンスなどのコストをおさえながら事業を推進できます。
代表的なSaaS企業 (法人向け)
世界規模で市場を伸ばし、日本でも広く活用される代表的なSaaS企業と、日本で実績を伸ばしている注目のSaaS企業を紹介します。
Microsoft
世界で活用される代表的なソフトウェアの開発、提供企業として知られています。多くのクラウド製品を提供しています。電子メールやWordやExcelなどのOfficeツールの「Microsoft Office 365」、Web会議システムの「Microsoft Teams」などがSaaSとして知られています。
世界規模のSaaS企業の代表格でもあり、様々なSaaS製品を提供しています。電子メールのGmailに加え、ドキュメント作成のGoogle Docsや関数計算などができるGoogle Sheets、Web分析機能を利用できるGoogle Anlyticsなど、日々の事務作業やマーケティングに活用できる多様な用途ごとに使用できるSaaSサービスを揃えています。企業向けだけでなく、個人向けの無料サービスも幅広く展開しています。
Salesforce
顧客管理や営業支援用のツールを全てクラウドサービスとして提供している米国のSaaS企業です。提供ツールは世界規模で活用されています。
顧客管理や営業支援の他にも、人材育成、マーケティング、アナリティクス、Eコマースを効率化する各種ツールをクラウド上で提供しています。2020年12月にはビジネスチャットのSlackで知られるスラック・テクノロジーズ社を買収すると発表し、Salesforceではさらなるサービス拡大を推進しています。
日本で注目されるSaaS企業
日本で実績を伸ばしている法人向けSaaS提供企業の特徴を紹介します。
freee株式会社
スタートアップ企業や小規模、個人営業の企業の課題を解決するサービスを数多く提供しています。給与計算、会計を効率化できるクラウドサービス「freee会計」は業界でも多くのシェアを占め、会社設立に必要な書類をすぐに作成できる「freee会社設立」、人事労務関連業務を支援する「freee人事労務」など、個人事業主からも支持されているクラウドサービスを揃えています。
株式会社SmartHR
クラウド人事労務ソフト「SmartHR」の開発・運営で知られる企業です。アナログ作業が主流だった社会保険・労働保険の手続きである雇用契約をはじめ、給与明細の配付、年末調整など企業の労務作業を効率化できるクラウド型ソフトウェアを中心に提供しています。
弁護士ドットコム株式会社(クラウドサイン)
ポータルサイト「弁護士ドットコム」の運営に加え、業界ナンバーワンシェアを誇る電子契約サービス「クラウドサイン」の提供を2軸とした企業です。
クラウドサインは、クラウド上で電子署名や電子サインが可能な電子契約サービスです。インターネット上で押印を行う取引先がクラウドサインのアカウントを所持していなくても契約の締結ができるため、契約者と取引する際に心配なく利用できるのが特徴です。
SaaSの特徴とメリット
市場が拡大するSaaSにはどんな特徴と利用メリットがあるのか紹介します。
高機能なアプリケーションに簡単にアクセスできる
SaaSの大きなメリットとして、様々な用途に特化して開発された高機能なアプリケーション(ソフトウェア)に簡単にアクセスし、定額で利用できる点です。更新や保守作業はサービス提供企業側が行うため導入も手軽で、ユーザー側はシステムに関する高度な知識がなくとも必要な機能やサービスを利用することができます。
インストールが不要
サービスを利用するPCごとに個別にソフトウェアをインストールする必要がなく、インターネット環境さえあればクラウド上で活用できるのがSaaSの大きな利点です。プラウザ上やアプリケーションで動作するSaaSならインターネット上で契約を行いログイン用のIDを取得すればすぐに利用を開始できます。
サブスクリプション形式が多く初期コストがかからない
多くのSaaSは月額/年額の定額制サブスクリプション形式で利用料金を支払います。インストール型と違い、最初に発生する高額な機器やソフトウェアの購入費用などの初期費用を必要としません。利用してみて使いにくいことが分かり、解約したとしても利用分以上の損失が発生せず、気軽に試せるのがメリットです。
場所や利用端末を問わずアクセスできる
SaaSの大きな特徴、メリットとして、ログインIDとインターネット環境があれば場所や利用端末を問わずアクセスできる点があります。
動作するために必要な基本的なスペックを備えていればどのPCからでもアクセスして利用できます。また、SaaSサービスの中にはモバイル端末からのアクセスが可能なタイプも数多く存在します。
複数人でアクセスできる
ドキュメントや表計算データをストレージで共有し、編集できるタイプのSaaSであれば、複数人で同じファイルにアクセスすることも可能です。離れた場所にいる取引先と同じファイルで同時に作業できるので、確認のためにその都度ファイルを作成して共有する手間が省けます。
SaaSのデメリット
一方でSaaSの利用で注意しておくべきデメリットもあります。それぞれを具体的に解説します。
1)提供企業の都合によりソフトウェアが改変される場合がある
パッケージ型のソフトウェアと異なり、SaaSはシステムが提供企業の管理下にあるため、提供企業側の都合や利便性向上のためソフトウェアが改変される可能性もゼロではありません。改変に伴い、使い慣れたソフトウェアの様式が変更されてしまったり、料金体系が変わってしまうことも考えられます。
利用しなくてもランニングコストが発生する
サブスクリプション形式で提供しているSaaSは、ソフトウェアを利用しない期間があっても定額の料金が発生するのが難点です。利用頻度が高く、継続利用することが分かっているサービスを厳選して導入する必要があります。
サービス提供企業側の障害に影響されやすい
SaaSはインターネット環境さえあればどこでも使えますが、提供企業のサーバーにシステム障害や故障などの不具合が起きると、復旧するまで使えなくなります。
提供企業によるメンテナンス作業の間も使用できません。このようなメンテナンスや障害などが発生した場合、復旧するまで利用企業の業務に支障をきたすこともあります。事前に、メンテナンスを行う時間帯などについて確認しておく必要があります。
2)SaaSの注意点
SaaSには
- ランニングコストに関するコスト管理が必要
- 必要とする機能やサービスと業務とのマッチング
- 利用方法などの社内教育
という3つの注意点があります。以下でそれぞれについて詳しく解説していきましょう。
ランニングコストに関するコスト管理が必要
SaaSは導入コストを低く抑えることが可能です。そのため、コスト削減の観点から、パッケージ型ソフトウェアからSaaSに移行する企業も多くあります。
しかしSaaSは一般的にサブスクリプション型で提供されるサービスなので、利用料が毎月/毎年継続的に発生する点においては注意しなければなりません。長期的に見ると、買い切り型よりSaaSの方が料金がかかる場合もあります。
また、SaaSによっては一人あたりで利用料金がかかることもあり、大人数の場合は総額で見ると当初想定していた予算の範囲を超えてしまうこともあるかもしれません。
必要とする機能やサービスと業務とのマッチング
SaaSを導入する際には、自社の業務に必要な機能を備えたサービスを選ぶことが大切です。
一方で、SaaSを活用するには、様々な企業が汎用的に利用するSaaSの特性上、場合によってはSaaSの仕様やサービス内容に自社の業務を合わせなければならないケースも考えられます。
自社に合っているかどうかを確認するには、まず無料版やお試し期間などを活用し、性能やコスト・サービスに問題がないことがわかってから導入することをおすすめします。
利用方法などの社内への教育
SaaSを導入する場合、企業には業務改善など大きな目的があります。そのため、SaaSによる効果的な業務改善には、導入の目的や効果的な利用方法などを従業員に理解してもらう必要があります。
社内説明会などの機会を設け、運用方法や利用方法などの十分な説明を行いましょう。インターネット上のサービスを使用するため、セキュリティに対する意識改革も必須です。
今後さらに用途が広がるSaaSビジネスを効果的に活用する
日本国内でもスタートアップを中心とする成長が目覚ましいSaaSビジネスは今後さらに市場を広げ、サービスも多様化してくると考えられます。日々の事務作業をはじめ、労務や人事、営業支援の課題解決に役立つSaaSは国内外問わず数多くリリースされています。
自社の課題解決に役立ち、SaaSに置き換えることで効率化できる分野は何かを洗い出した上で、SaaSの効果的な導入と活用を検討しましょう。