勤怠管理

36協定違反を防ぐ:入退室ログを使った時間外労働の把握と、企業が実際にやっている運用パターン5選

著者:

西村幸

公開日:

2026年6月1日

更新日:

「月末に社員の勤怠を集計してみたら、36協定の上限を超えていた」——。

労務担当者や管理職の方からこうした声を聞くことがあります。36協定を締結し、勤怠管理システムも導入している。にもかかわらず、月末に集計して初めて上限オーバーに気づき、慌てて対応する——この繰り返しが、組織の労務リスクを静かに積み上げています。

問題の核心は「集計してみるまでわからない」という管理の構造にあります。月次で集計するまで残業時間の累積が見えない仕組みでは、上限に近づいていても誰も気づけません。知らないうちにアウトポイントを越えていた、という事態は十分に起こりえます。

本記事では、36協定の上限管理を「月末の後追い確認」から「日々の能動的なモニタリング」へ転換するための考え方と、入退室ログを活用して時間外労働を把握・管理している企業の実際の運用パターンを5つご紹介します。


まず確認しておきたい:36協定の上限と違反リスク

36協定(正式名称:時間外労働・休日労働に関する協定)は、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて従業員に残業をさせるために必要な労使協定です。2019年の働き方改革関連法施行以降、36協定を締結せずに時間外労働をさせた場合や、上限を超えて労働させるなどの違反をした場合、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が課される罰則付きの規定となっています。

時間外労働の上限には2つの水準があります。

原則的な上限(一般条項)

  • 月45時間以内・年360時間以内

特別条項を設けた場合の上限

  • 年720時間以内

  • 単月では100時間未満(休日労働含む)

  • 複数月(2〜6ヶ月)の平均で80時間以内(休日労働含む)

  • 月45時間を超えてよいのは年6回まで

特別条項を結んでいたとしても、単月100時間・複数月平均80時間という絶対上限は越えられません。また、特別条項の適用は「臨時的かつ特別な事情がある場合」に限られており、常態的な繁忙への対応に特別条項を使うことは本来の趣旨に反します。

重要なのは、これらの上限は「実際に働かせた時間」が基準であるという点です。従業員が申告した時間ではなく、客観的な記録によって把握した実態がそのまま管理の対象となります。


「アウトポイントの手前」を管理するという発想

多くの企業で起きている問題は、「上限を超えたこと」への対応ではなく、「上限に近づいていること」への対応の遅れです。

月45時間という上限に対して、月末になって初めて44時間であることに気づいても、打てる手はありません。翌月の業務調整しか選択肢がなく、それも十分に機能しないことが多い。むしろ対応が必要なのは、月30時間を超えた時点、あるいは月40時間を超えた時点です。この「アウトポイントの手前」に気づく仕組みを作ることが、36協定違反を防ぐための根本的な対策です。

そのために必要なのが、「リアルタイムで累積残業時間を把握できる記録」です。そして、自己申告やPCログだけでは把握しきれない場面——PCを使わない現場職種、早出・残業を申請しない隠れ残業、深夜・休日の入室——をカバーする手段として、入退室ログが有効になります。


入退室ログが36協定管理に有効な理由

入退室ログは「誰が何時に施設内に入り、何時に出たか」を客観的に記録します。これは以下の点で、36協定管理に直結する情報です。

① 客観性:本人の自己申告ではなく、ICカードやスマートロックが記録した物理的な事実のため、後から「知らなかった」「申告し忘れた」という言い訳が通じない

② 網羅性:PCを使わない工場・倉庫・物流現場・店舗スタッフも含め、オフィスに入った全従業員を記録できる

③ 証拠力:労基署の調査や未払い残業代訴訟において、入退室ログは有力な証拠となる。逆に言えば、企業が「管理できていた」ことを示す証拠にもなる

④ 即時性:クラウド型のスマートロックシステムは入退室と同時にログが記録され、勤怠管理システムとAPI連携することで、残業時間の累積をリアルタイムで集計できる

ただし入退室ログには限界もあります。在宅勤務・外出先での労働時間は記録できないため、テレワーク中心の職種には補完的な手段(PC打刻・自己申告)との組み合わせが必要です。オフィスの入退室ログはあくまで「在社時間の客観的記録」であることを前提に、自社の運用に合わせて設計することが重要です。

運用パターン5選:企業が実際にやっている時間外労働の管理方法

パターン1:「入退室ログ × 勤怠システム連携」で自動アラートを飛ばす

最も基本的かつ効果的な運用です。AkerunなどのクラウドスマートロックシステムをKING OF TIME・マネーフォワード勤怠・ジョブカン・勤次郎などの勤怠管理システムとAPI連携させ、入退室ログを勤怠データとして自動取込みます。

この運用の核心は「段階的アラートの設定」です。月45時間の上限に対して、たとえば以下のような段階的なアラートを設定します。

  • 月30時間超過:本人・直属上長へ自動通知

  • 月40時間超過:本人・上長・人事担当者へ自動通知+翌月の業務調整を促すメッセージ

  • 月45時間超過:人事・経営者へ即時エスカレーション

アウトポイントは「月45時間」ですが、実際に管理すべきは「月30〜40時間の段階」です。アラートを受けた管理者が業務の再配分・残業申請の精査・健康面でのフォローを早期に行うことで、上限超過を未然に防げます。特別条項付き36協定を結んでいる企業でも、「年6回まで」という制限があるため、どの月に特別条項を適用するかの計画的な判断が可能になります。

この運用が特に有効な企業規模・業態:全従業員のPC利用率が高いオフィス企業、繁忙期と閑散期の波がある業態(受託開発・会計事務所・流通など)


パターン2:入退室ログと自己申告の「突合」で隠れ残業を発見する

入退室ログを単独で使うのではなく、従業員の自己申告(勤怠システムへの打刻時間)と突合することで、実態との乖離を発見する運用です。

具体的には以下のような乖離パターンを自動検知します。

  • 在室しているのに

  • 申告がない:入室記録はあるのに、勤怠システムに打刻記録がない → サービス残業・申告漏れの可能性

  • 申告よりも長時間在室している:打刻上は定時退勤だが、退室記録は2時間後 → 残業の過少申告

  • 申告よりも早く出社している:始業前の早出が恒常化しているが申告されていない

これらの乖離は、担当者が意図的に過少申告している場合もありますが、多くは「申請するほどでもないと思っていた」「申請しにくい雰囲気だった」という組織文化の問題を反映しています。いずれにせよ、企業にとっては未払い残業代リスクと健康管理上の問題を同時に抱えている状態です。

突合は手動でExcelマクロを使って実施している企業もありますが、勤怠管理システムによっては「PCログ・入退室ログとの乖離チェック機能」を標準搭載しているものもあります。乖離が検出された従業員には自動的に確認を促す通知が飛ぶ設定にしておくと、担当者の確認工数を大幅に削減できます。

この運用が特に有効な企業規模・業態:サービス残業が発生しやすい業界(IT・コンサル・広告・金融など)、上場準備中でコンプライアンス体制を整備したい企業


パターン3:PCを使わない現場職は「入退室ログが主軸」

製造ライン・倉庫・物流センター・店舗・ドライバーなど、業務でPCをほぼ使用しない職種では、PC打刻を主軸にした勤怠管理は機能しません。この場合、入退室ログが事実上唯一の客観的な記録手段になります。

具体的な設置ポイントは業態によって異なります。工場では「工場敷地の入口」「製造ライン入室口」「休憩室」などに設置することで、勤務開始から終了まで、休憩時間も含めた実労働時間を把握できます。物流センターでは「ドライバー出発前の拠点入口」「帰着後の入室」を記録することで、拠点在荷時間の管理が可能になります。

この運用を行っている企業では、月末に「拠点ごとの入退室ログCSV」を勤怠管理システムへインポートし、自己申告の打刻データと突合するフローを組んでいるケースが多く見られます。突合によって「申告時間より30分以上早出している従業員」「退勤申告後も30分以上拠点内にいる従業員」を自動的にリストアップし、管理者が月次で確認する運用です。

この運用が特に有効な企業規模・業態:製造業・物流業・小売業・建設業など、現場職員が多い企業。大企業の下請け企業として取引先からのセキュリティ基準(SCS評価制度等)への対応が求められている企業


パターン4:深夜入室・休日入室を自動検知して36協定の休日労働管理に活用する

36協定の管理において、見落とされがちなのが「休日労働」と「深夜労働(22時〜5時)」です。休日労働は36協定の上限管理に含まれる(特別条項の月100時間・複数月平均80時間は「休日労働を含む」)ため、休日にオフィスに入室した記録は残業時間の集計に算入する必要があります。

入退室ログを活用している企業では、以下のアラートを設定しているケースがあります。

  • 土日・祝日の入室を検知した場合:管理者に即時通知。休日労働申請の有無を確認

  • 22時以降の在室継続を検知した場合:深夜労働アラートとして本人・管理者へ通知

  • 退室後○時間以内の再入室(翌早朝入室等)を検知した場合:勤務間インターバルの短縮を検知する設定(将来の法改正対応への先行準備としても有効)

特に深夜労働は、割増賃金率(深夜25%増)の計算に直接影響するため、経費管理の観点からも把握の精度が重要です。深夜に申請なしで在室が続いている従業員の把握は、健康管理上の観点からも不可欠です。

この運用が特に有効な企業規模・業態:繁忙期に深夜残業・休日出勤が発生しやすいIT・開発・コンサル企業、上場審査や内部監査で休日・深夜労働の管理状況を確認される可能性がある企業


パターン5:入退室ログを「証拠保全」として設計し、労基署・上場審査・訴訟に備える

5つ目のパターンは、日常の運用ではなく「有事への備え」として入退室ログを設計・保全するものです。

労働基準監督署の調査が入った場合、企業は賃金台帳・出勤簿(入退室ログを含む)の提示を求められます。提示できない、または記録が不備の場合、是正勧告の対象となります。また、退職した従業員から未払い残業代の請求訴訟が起こった場合、企業側の証拠として「当時の入退室ログ」が有力な資料になります。

ただし、証拠として活用するためには以下の条件が必要です。

  • ログの保存期間:労働基準法上、賃金台帳・出勤簿は5年間(当面3年間)の保存が義務付けられており、入退室ログもこれに準じた期間の保存が求められます。クラウド型のスマートロックシステムは自動的にログを蓄積・保存するため、手動での保存管理が不要です

  • 改ざん不可性:クラウド上に蓄積されたログはシステム側が管理するため、社内での改ざんが技術的に困難です。これが証拠力の高さにつながります

  • 記録の完全性:「ある期間だけログが欠落している」という状態は証拠として機能しません。システムの稼働状況を定期的に確認し、記録が途切れていないことを確認しておく必要があります

上場準備中の企業では、監査法人からの審査項目として「時間外労働の客観的な把握体制」が確認されることがあります。「入退室ログと勤怠システムが連携しており、乖離を自動検知できる体制がある」と説明できるかどうかは、労務管理体制の評価に直結します。

この運用が特に有効な企業規模・業態:IPO準備中のスタートアップ・ベンチャー、多拠点展開で管理体制の均質化が課題の企業、過去に労基署の是正勧告を受けたことがある企業


運用パターンの選び方:まず「自社の弱いポイント」を特定する

5つのパターンを見てきましたが、どれかひとつを選ぶという話ではなく、自社の状況によって組み合わせることが現実的です。判断の出発点として、以下の問いを確認してみてください。

「月末に集計するまで残業の累積が見えていないか?」 → パターン1(自動アラート)を優先

「申告時間と実態にズレがある気がするか?」 → パターン2(突合運用)を整備

「PCを使わない従業員の労働時間を客観的に把握できているか?」 → パターン3(現場職への入退室ログ展開)を検討

「深夜・休日の残業が36協定の集計に正確に入っているか?」 → パターン4(深夜・休日入室の自動検知)を導入

「労基署調査・訴訟・上場審査に備えた証拠保全ができているか?」 → パターン5(ログの保存・管理体制)を設計


まとめ:36協定管理は「守り」から「先読み」へ

36協定違反の多くは、悪意ではなく「仕組みの不備」から生まれています。締結しているのに違反が起きる最大の原因は、上限に近づいていることを誰も事前に知らないことです。

入退室ログは、その「知らない」状態を解消するための有力な手段です。客観的な記録として残り、勤怠システムと連携することで自動的に累積残業時間を把握でき、アラートで「手前」の段階で気づける体制を構築できます。

36協定の管理を「月末に集計して確認する守りの運用」から、「日々モニタリングして先手を打つ能動的な運用」へ切り替えることが、企業として取り組むべき次のステップです。


36協定の管理ならAkerun

Akerunは、クラウド型のスマートロック・入退室管理システムです。入退室ログをリアルタイムで記録し、KING OF TIME・マネーフォワード勤怠・ジョブカン・勤次郎など主要な勤怠管理システムとのAPI連携に対応しています。入退室ログと勤怠データの突合・アラート設定・証拠ログの保全まで、36協定管理に必要な客観的記録の基盤を提供します。

後付け設置が可能なため、大規模な工事なしに既存オフィス・工場・倉庫へ導入でき、PCを使わない現場職種の時間外労働把握にも活用いただけます。「自社の36協定管理体制を見直したい」「入退室ログで労務リスクを下げたい」とお考えの方は、お気軽にご相談ください。

▶ お問い合わせ・資料請求:https://akerun.com/inquiry

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この記事を書いた人

西村幸

株式会社Photosynth マーケティング部 

スマートロック・入退室管理システムの導入支援を中心に、法人向けセキュリティソリューションの情報発信を担当。オフィスやフィットネスジム、シェアオフィスなど多様な業種への導入経験をもとに、実務に役立つ記事を執筆しています。

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