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2015年、某大手企業の社員が過労自殺した事件をきっかけに、日本だけでなく世界でも過労死が問題視されるようになりました。
しかし、一体何時間働いたら体にどのような影響が出るのか、ご存知でしょうか。
自分では平気と思っていても、いつの間にか身体は悲鳴を上げているかもしれません。
今回は、長時間労働や残業がどう身体に影響を与えるのか、厚生労働省の定義や各社で行っている働き方改革の事例も併せてご紹介します。
日本人の労働時間と残業時間の平均
長時間労働の末、身体にどのような影響が出るのかをご説明する前に、日本人がどれくらい働いているかをご説明しましょう。
日本人の労働時間は1日平均6.9時間?
OECD(経済協力開発機構)発表の2016年のデータによると、日本人の労働時間は1日6.9時間、年間1,713時間で、世界22位という結果でした。
1日約7時間だったら少ないのでは、と思われるかもしれませんが、パートタイムワーカーも含めた平均であるため、少ない結果となっています。
また、みなし残業や休日出勤を含めてカウントしていないため、日本人の労働時間はさらに多いといえます。
日本人の残業時間は1日平均2時間?
就職・転職のための企業リサーチサイト「OpenWork」の調査によると、1か月の残業が30時間以上と答えた人は50%以上にのぼり、平均は47時間という結果となりました。
1か月20日出勤の場合、1日2時間は残業していることになります。
ところが、この残業時間も、みなし残業を含んでいないため、正確な残業時間とはいえません。
では、どれくらい働くと身体に影響が出るのでしょうか。
過労死ラインは1か月80時間!些細な症状にも要注意
現在、過労死ラインは1か月の時間外労働が80時間を超えると健康を害する恐れがあると言われています。
残業80時間が数か月間続いて健康に影響が出ている場合、長時間労働との因果関係が認められやすくなりますが、80時間というのはあくまで目安であり、超えていなくても認められるケースもあります。
下記の資料は厚生労働省が労災認定している対象疾患認定基準の解説になります。
・脳、心臓疾患の労災認定(PDF)
・精神障害の労災認定(PDF)
ここからは資料の内容を踏まえ、労災認定の対象疾患になると身体にどのような影響が出るか、労災認定される基準についてご説明します。
①脳血管疾患
脳梗塞やクモ膜下出血などが原因で脳に血液が届かなくなり、細胞が壊死してしまう病気で、以下4つが対象疾病です。
・脳梗塞
・クモ膜下出血
・脳内出血
・高血圧性脳症
代表的な症状は、
・ろれつが回らなくなる
・片方の手足や顔半分の痺れ
・立てない、フラフラする
・片方の目が突然見えなくなる
・激しい頭痛
などが挙げられます。
労災認定されるには、業務による明らかな荷重負荷があったことが必要となります。
具体的には、業務に関連して重大な事故や事件に直接遭遇・緊急で身体的負荷を受けるような事態・極度に温度差がある場所での作業などです。
そのほか、労働時間や労働環境も鑑みて考慮され、総合判断されます。
②虚血性心疾患
心臓に十分な血液が回っていない状態をいいます。
対象疾病は以下です。
・心筋梗塞
・狭心症
・心停止
・解離性大動脈瘤
代表的な症状としては、
・胸の痛み
・圧迫感
などです。
重症になると、
・激しい嘔吐
・冷や汗
・立てないくらいの痛み
などの症状も出始めます。
労災認定までの判断基準は脳血管疾患の時と同様です。
③精神障害
発症した精神障害が業務に関連していると考えられる場合、労災と認定されます。
対象となる精神障害は、
・統合失調症
・急性ストレス反応
などが挙げられます。
また、業務に関連して精神的・肉体的に耐えられずに自殺してしまった場合も労災認定されることがあります。
代表的な原因はうつ病です。
うつ病の代表的な症状としては、
・なかなか眠れない、起きられない
・心停止何をしても楽しくない
・イライラする
・集中力が無い
・死にたいと思う
などです。
自殺するほど辛いなら会社を辞めれば、と思う人もいるかもしれませんが、判断力さえ失ってしまうのがうつ病です。
過労自殺をした人が、遺書や自殺前に残した文書に自分を責めるような文や周りへの謝罪文を残すケースも少なくありません。
残業時間過多を防止するために企業が実践している働き方改革例4選
上記のような過労による身体への影響を受けて、国と企業が一丸となって働き方改革を進めてきました。
①テレワークの導入
会社に出勤しなくても、ICT(情報通信技術)を活用することで仕事ができる制度を導入する会社が増えてきました。
電話会議やWeb会議にすることで、
・いかに相手に対して正確に物事を伝えられるかを考えて仕事をするようになった
・出張のコストがかからなくなった
・これまで関わらなかった社内コミュニティとも関わるようになり、コミュニケーションが活発になった
という会社もあります。
②ノー残業デーの徹底
某大手企業では、チーム内で毎週何曜日は残業をしない日と決め、管理職自ら守るようにしています。
また、ノー残業デーではない日でも、残業をする場合には管理職に必ず残業申請を行い、誰がどれくらい残業しているか把握し、残業が多い場合には業務の整理を検討するなどの対策を行っています。
ただし、ノー残業デーにはまだ課題点もあります。ノー残業デーであるため残業はつけないものの、終業後に電話・メール対応や書類作成などを自宅で行っているケースもあります。
それでは制度自体に意味がなく、単なるサービス残業になってしまうので対策が必要です。
③入退室管理システム、勤怠管理システムの導入
紙のタイムカードではどれくらい残業をしているというのは把握しづらいですが、
入退室管理システムと勤怠管理システムを使うことで、社内セキュリティを強化できるだけでなく、残業時間の把握も簡単になり、個人ごとに対策を打ちやすくなります。
入退室管理システムにはICカードを使用するものや指紋認証など様々な種類があり、会社に合ったサービスを選ぶ必要があります。
④定期的なストレスチェック
いくつかの質問に答えることで、ストレス度を定期的にチェックしている会社もあります。
例えば、
Q1,最近、やる気が出ない、何をしても楽しくないと感じることはありませんか?
Q2,最近、胸が苦しくなったり息苦しくなったりすることはありませんか?
といった内容です。
セルフチェックすることで注意喚起し、ストレス度が高い場合には受診を促すこともあります。
残業を減らすだけではなく個人でも対策は必要
ここまで企業による長時間労働による残業時間抑制、過労死防止の対策について紹介してきましたが、労働者本人や家族の協力など、個人の取り組みも併せて行っていくことが大切です。
相談できる相手を持つ、定期的に健康診断を受ける、家族間でお互いの異変に気づくことができるようにするなど、企業と個人の両面から対策をしていきましょう。