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経営・戦略
激変した10年を経て、2026年のオフィスはどこへ向かうのか——変遷とトレンドの総整理
2026年04月23日
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2016年頃のオフィスを思い返してみてください。多くの企業では全社員に固定席が与えられ、週5日の通勤が当然とされていました。ビルの競争力は「近・新・大」——駅近、築浅、大型——の3要素で語られ、内装は入居テナントが自分で決めるのが標準でした。
それから10年。2026年の今、その前提はいくつも崩れています。
フリーアドレスは当たり前になり、リモートワークとのハイブリッドが標準形として定着しました。入居テナントは「席があること」ではなく「来たくなる理由があること」をオフィスに求めるようになりました。ビルオーナーは共用部を投資対象として捉え直し、セットアップオフィス、ラウンジ、フィットネス設備を戦略的に整備するようになりました。
この10年間に起きたことは、単なる働き方の変化ではありません。オフィスという不動産資産の価値の定義そのものが書き換えられた変革といえるでしょう。
本稿では、2016年から2026年にかけてのオフィス市場の変遷を時系列で整理し、2026年現在の市場構造とトレンドを俯瞰します。ビルオーナー、ディベロッパー、オフィス運営に関わるビジネスパーソンが「今自分たちはどこにいるのか」を確認するための地図として、ぜひご活用ください。
2010年代後半、東京オフィス市場は歴史的な活況を呈していました。都心5区の空室率は2019年に向けて低水準を維持し、人員増加に対応するための拡張移転・増床需要が旺盛でした。情報通信産業を中心に東京一極集中が加速し、都心5区のオフィスワーカー数の伸びは延床面積の伸びを上回って推移し、一人あたりの事務所面積は縮小が続きました。
この時代のオフィス選びの基準は明快でした。「近・新・大」——最寄り駅からの近さ、築浅、大型であることが競争力の源泉とされ、オフィスビルの競争力を左右する要素としてこの考え方が広く浸透していました。内装は原則として入居テナントが自己負担でスケルトンから作り上げるのが当然とされていました。
ビルオーナーにとってこの時代は、良質な立地に標準的な設備を持つビルを建てれば、テナントは自然に集まる時代でした。「体験の設計」より「スペックの提供」が競争の軸だったといえます。
2020年初頭から始まった感染症の拡大は、オフィス市場に急ブレーキをかけました。テレワーク推進が企業の急務となり、多くの組織が「出社ゼロでも業務は回る」という事実を発見しました。
2020年から2022年にかけてリモートワークが急速に普及し、働き方が大きく変化しました。リモートワークを前提に大幅に面積を減らすテナントが現れ、空室率が上昇し、「オフィス不要論」や「柔軟なハイブリッドモデルの可能性」といった意見が飛び交いました。
オフィス床の縮小傾向は大企業において特に顕著でした。ザイマックス総研が毎年実施している「大都市圏オフィス需要調査」では、オフィス面積を「拡張した」企業と「縮小した」企業の比率の差をDI(ディフュージョン・インデックス)という指標で集計しています。DIがプラスであれば拡張企業が多く、マイナスであれば縮小企業が多い状態を意味します。このDIは2019年まではプラス(拡張が縮小を上回る状態)で推移していましたが、2021年・2022年はマイナスに転じました。とりわけ大企業ではこのマイナス幅が全体平均より大きく、大手ほどオフィス縮小を積極的に進めた実態が数字に表れています。同調査では、縮小理由の約6割が「テレワークにより必要面積が減った」と回答しており、テレワーク普及がオフィス需要を直接的に押し下げたことがわかります(参考:ザイマックス総研「大都市圏オフィス需要調査」)。
この時期のオフィス市場には、2つの構造変化が起きていました。
第一に、「席数=人数」という発想の解体。全社員分の固定席を持つことへの疑問が広がり、フリーアドレス導入や出社率に合わせたコンパクト化が加速しました。
第二に、ビルの「稼働率」概念の変容。テナントが契約面積を削減しても、入居者数自体が減るわけではありません。結果として1人あたりの使用面積は減少しましたが、ビルの「満席感」は以前より薄れ、空席の目立つオフィスが増えました。
ビルオーナーにとっては、退去・縮小への対応と、空き区画への新規テナント誘致が最大の課題となった時代です。
転換点は2023年でした。テレワーク一辺倒の反動として、組織・コミュニケーション・採用面での課題が顕在化し始め、企業の出社回帰姿勢が明確になっていきました。
CBREの「オフィス利用に関する意識調査2023」によると、オフィスへの出社率は感染拡大ピーク期の約52%から2023年7〜8月時点では平均70.6%まで上昇しています。2〜3年後の出社率想定も同水準で、出社率はすでにポストコロナの巡航状態にあるようです。
ただし、この「出社回帰」は以前の週5日出社への単純な巻き戻しではありませんでした。多くの企業がハイブリッドワーク(出社と在宅の併用)を前提とした上で、「出社する日の価値をどう高めるか」という問いを抱えていました。
この問いが、オフィスの「質」競争を引き起こしました。
採用・エンゲージメントの場としてのオフィス:優秀な人材に選ばれるためのオフィス環境が経営戦略の一部として位置づけられ始めました。採用力向上などをめざしたオフィス環境改善ニーズが継続する中、交通利便性の高いエリアや、入居者専用ラウンジなどの付加価値を備えたオフィスビルに人気が集中し、二極化が維持されるようになりました。
セットアップオフィスの需要急拡大:テナント誘致に苦戦していた既存オフィスビルの打開策として採用されるケースが多かったセットアップオフィスが、新築ビルにも増加しました。各ディベロッパーによる戦略的な中小規模オフィスビル開発では、セットアップを施した区画がテンプレ化し、周辺相場より3,000〜5,000円高い賃料単価で成約するケースもあり、需要の高さが伺えます。
居抜き市場の拡大:建設コストの高騰が内装工事費を押し上げる中、前テナントの内装をそのまま引き継ぐ居抜き物件への需要が増加しました。ビルオーナー側もテナント確保のために原状回復義務の柔軟化で対応するケースが増えています。
2026年現在、東京オフィスマーケットは全体として堅調に推移しています。2025年4月末時点の東京23区全体の空室率は2.26%まで下落しました。出社回帰の本格化を受け、拡張移転や増床を進める企業も現れています。
テレワーク制度そのものを廃止する、もしくは週あたりの出社回数の下限を設定することで出社する社員数が増加し、既存オフィスでは収容できなくなり、新規床を借り増すケースも見られています。
ただし、この「好況」は一様ではありません。市場の内部では、エリア・グレード間の格差が鮮明になっています。
長期空室ビル数は2022年4月以降増加し、2024年8月のピーク時には23区全体で20棟に達しました。その後マーケット全体の空室率低下に伴い減少傾向にあるものの、長期間空室を抱える大規模ビルは湾岸エリアに集中して残されており、同エリアが23区全体の長期空室ビルの約75%を占めています。
一方、丸の内・大手町エリアや渋谷駅周辺など、以前の水準近くまで回復している人気エリアでは、ビル側から入居テナントに対して賃料引き上げ交渉を検討する声も聞こえてきています。
「全体として空室率は下がっている」という数字の裏に、立地・スペックによる二極化が同時進行しているのが2026年の実態です。
この10年の変遷を踏まえたうえで、2026年現在のオフィス市場を特徴づける5つのトレンドを整理します。
かつて「苦戦ビルの打開策」だったセットアップオフィスは、今や標準的な商品フォーマットになりつつあります。内装工事費の高騰・工期長期化を嫌うテナント需要と、空き区画を早期に埋めたいビルオーナーのニーズが合致し、新築ビルにもセットアップ区画が増え、各ディベロッパーによる戦略的な展開が本格化しています。
テナントが「自前で内装を作ることに労力をかけたくない」という意識が強まる中、ビルオーナーが内装投資を先行させてテナントに貸し出すモデルは、双方にとって合理的な選択肢となっており、この流れはさらに加速する可能性があります。
出社回帰トレンドによって会議室不足が顕在化したことで、館内テナント専用ラウンジスペースやサービスオフィスを活用するテナントも増加傾向にあります。
ディベロッパー各社も共用部を単なる廊下・エレベーターホールから、テナントの働き方を支えるアメニティ空間へと再定義しています。ラウンジ、会議室、テラス、カフェ、フィットネス——こうした共用設備は今やテナントのリテンション(契約継続)を左右する要因として経営判断に組み込まれています。
オフィスビルの質の変化として、用途の複合化だけでなく、IoTやAIを取り入れたスマートビル、出社したくなるオフィスを実現するアメニティ・共用スペースの充実など、新しい付加価値を持ったビルが増加しています。今後、これらの付加価値を備えていることがオフィスの競争力を測る上での重要な指標として一般化していく可能性があります。
建設費が高騰する中、オフィスビルのバリューアップの手段として建て替えではなくリニューアルを選択するケースも増えており、築古ビルにおいても共用部の質の向上やセットアップオフィス需要の取り込みなどが行われています。今後、築年数に限らずさまざまな付加価値を備えたビルが増え、「新」へのこだわりが弱まることも考えられます。
「築浅・大型であること」だけでは差別化できない時代に入りつつあります。テナントが求めているのは、「そこで働くことで得られる体験」です。ブランディングになるデザイン、コミュニティが生まれる共用部、環境性能(ESG対応)、スマートセキュリティ——これらが「新しい競争軸」として台頭しています。
共用部の充実・セットアップオフィスの普及・シェアオフィス併設など、ビルの機能が複雑化するにつれて、「誰がどこにアクセスできるか」の管理コストも増大しています。テナント企業ごとに利用できる共用スペースが異なり、会議室は予約制、フィットネスは特定会員のみ——こうした多層的な管理を人手で行うことは現実的ではありません。
スマートロックをはじめとする入退室管理システムは、この課題への実践的な回答です。テナントの入退社に合わせた権限の自動更新、共用部の予約連動解錠、来訪者への一時アクセス付与といった機能を、管理スタッフなしに実現できます。Akerunのような法人向けシステムは、ビルの管理コスト削減とテナント体験の向上を同時に実現する手段として、ディベロッパー・PMからの関心が高まっています。
2026年から2028年、特に2027年の供給量は60万㎡と少なく、2024年から2028年までの平均は年間約82万㎡にとどまる見通しです。これは2025年の大量供給(119万㎡見通し)の反動でもあります。
新規供給が少ない時期は、既存ビルの相対的な競争力が回復しやすくなります。この2〜3年は、既存ビルのリニューアル・付加価値向上への投資回収を考える好機といえるでしょう。ただし中長期的には、AIによるオフィスワーカー代替の影響や景気後退によるオフィス需要減少など、将来の需要変化への備えも引き続き必要です。
時期
市場の基調
テナントの主な関心
ビルオーナーの課題
トレンドキーワード
2016〜2019
超低空室・活況
人員増加に対応した拡張
需要旺盛で基本は待ちの姿勢
近・新・大、拡張移転
2020〜2022
空室率上昇・不確実性
縮小・ハイブリッド移行
テナント引き留め・空室対応
テレワーク、オフィス不要論
2023〜2024
回復・二極化の始まり
出社環境の質的向上
付加価値競争・セットアップ化
出社回帰、セットアップ、居抜き
2025〜2026
堅調・エリア格差深化
採用・エンゲージメント強化
共用部投資・リニューアル
体験設計、アメニティ、スマートビル
この10年の変遷から見えてくるのは、「オフィスは供給すれば埋まる時代」が終わりつつあるという事実です。テナントは豊富な選択肢の中から、体験・立地・柔軟性・コミュニティを基準に選ぶようになりました。
ビルを資産として管理する視点から見ると、今後の競争力の源泉は大きく3点に集約できます。
共用部への能動的な投資:単なるエレベーターホールをテナントが活用したくなる空間に転換することが、テナントリテンションと新規誘致の双方に効果的です。会議室不足への対応としての予約制共用スペース設置は、即効性が高い施策の一つといえます。
セットアップ・居抜きの積極活用:内装工事負担を軽減したいテナントニーズに応えることで、空き区画の早期充填と賃料水準の維持を両立できる可能性があります。
管理のスマート化:共用部の多機能化に伴い、人手による管理コストが増大します。入退室管理システムや予約連動型のアクセス制御を導入することで、管理コストを抑えながら高水準のサービスを維持することができます。
オフィス市場の次の10年は、「誰が最も体験価値の高い空間を設計できるか」という競争になっていくと考えられます。
Akerunでは、ビル共用部の多機能化・セットアップオフィス化・シェアスペース運営に対応した入退室管理システムを提供しています。
テナント企業ごとのアクセス権限管理、予約システムとの連動、来訪者管理など、複雑化するビル管理のスマート化について、ぜひお気軽にご相談ください。
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